与太話にもほどがある 桃(ローグ&ウィズさん) 忍者ブログ
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自キャラローグと、友人のウィズさんの話。ギルマスちょこっと。妄想120%ぐらい。ほのぼの。

 

「こんにちは」
いつ来ても人が多い首都の町並みを抜けて、ローグは木陰で涼んでいるらしきウィザードに声をかけた。今日は未だに太陽が一生懸命になっていて暑い。ぱたぱたと手で顔を扇いでいたウィザードは、相手が知り合いであることに気が付いてふわりと笑う。
「こにちわ~」
「今、平気?」
つられてへらりと笑うローグに頷いて、ぽすぽすと自分の隣のスペースを叩く。彼は腰ほどの高さがある塀の上に腰掛けており、座っていいという合図だと解釈してローグはそこに腰掛ける。その流れのまま、手に持っていた器を差し出した。
「なあに?」
頼りない使い捨ての器の中に、薄く小さく削られた氷が詰まっており、その氷を真っ赤な液体が染めていた。首を傾げたままウィザードが受け取ると、器はひやりと冷たかった。
「いや、なんか出店が出てまして、美味しそうだったから」
氷に刺さりっぱなしだったスプーンを手に取るように促して、ローグはのんびりと説明を開始した。氷とローグの顔を見比べてどうすべきかと迷っていたウィザードを、溶けるからと食べるように勧める。
「かき氷とかいう、アマツ名物?で、なんだったか……えーと、みにすてっぷ、違うな、なんとかって店で売ってて、珍しそうで」
忘れちゃった、と苦笑して見せてから、どうぞと再度勧める。しばし逡巡していたウィザードだったが、やがて根負けしてスプーンを手に取った。安っぽいスプーンに半口ほどすくい、赤い氷を口に含む。しゃりしゃりした食感と薄い甘さが珍しく、ぱちぱちと瞬きを繰り返した。
「美味い?」
その様子を楽しげに眺めていたローグに聞かれ、ウィザードは二、三回頷いた。
「うん、冷たくておいしい」
「良かった」
全部食べちゃっていいっすよ、と言われて、自分の喉が渇いていることに気が付いたウィザードはしゃりしゃりと氷を幾分か食み続けたが、やがてローグの方を見上げた。ローグの方がいささか彼よりも背が高いため、座っていても目線の高さに違いが出るのだ。
「りーくんは?」
「へ?」
「自分のぶんは?」
一瞬唇の端を引きつらせたローグだったが、すぐにそれを隠して笑みにすり替えた。
「俺はもう食べちゃったんで」
ごまかすのは得意だった。納得してくれるかなと思って発した言葉は、じっと自分を見つめる非難めいた視線によって撃ち落とされてしまったが。ざくりと氷にスプーンを突き刺すウィザードの、眉がきれいにハの字になってしまっていた。
「うそつき」
呟かれた言葉はローグの精神に多大なるダメージを与えて余りあった。すいませんごめんなさいと瞬時に土下座したくなる衝動を抑え込んで、どうにか視線を迎える。目を逸らしたら負けだとは悟っていた。と言っても、ローグが勝てた試しなどまずないのだが。
実際ローグはそのかき氷なるものを味見すらしていない。通りすがりに適当に購入したはいいものの、歩きながら食べるには不向きであったし、人混みから逃れるように歩いてきたらその先でウィザードを偶然見つけたのだ。その時点で差し入れにしてしまおうと思考が働いたのだから、ローグとしては食べなくても全く問題はないのだがウィザードにとってはそうではないらしい。
「はい」
叱られたらどうしよう、嫌われたら三日ぐらい引きこもろう、と暗い考えを巡らせていたローグに訪れたのは叱咤の言葉でも怒りのデコピンでもなく、赤い氷をいっぱいに載せたスプーンだった。
「……へ」
「りーくんも食べなくちゃだめー」
「……え」
真剣に、なんと言えばいいかわからずにローグは狼狽えた。白い使い捨てのスプーンの上に、溶けかけた氷が載っている。赤いシロップに侵食されたそれが、木漏れ日を反射してきらりと光った。めまいすらローグは感じる。どうすればいいのだろう。
「いや、ええと」
全部食べていいんですよ、と重ねて言うべきか、俺はあまり好きじゃないんで、と言うべきか、それならそれで何で買ったんだと突っ込まれそうである。分け与えられたら、どうすればいいんだろう。
だが結局、ローグは視線のプレッシャーに負けてそれを受け取った。
「……いただきます」
向けられていたスプーンに直接かぶりつくのではなく、柄を受け取って溶けかけた氷を口に含む。薄まったシロップの味と瞬間的な冷たさが口の中に広がって、あっという間に無くなった。
「ああ、これはなかなか」
美味い、とローグは唇を一舐めした。ウィザードは自分が誉められたように笑う。なんだろうなあ、とローグは思う。
このふわふわとする浮遊感のような、落ち着かないようで留まっていたい、この感覚はなんなのだろう、とローグは思う。
「……嘘、ついて、ごめんなさい」
「んーん」
首を横に振られた。ちょっと怒った、と呟かれると罪悪感で埋まりたくなるが、必死で我慢する。
突きつけられた器から今度は自分で氷をすくい、二口ほど口に運ぶ。気温に負けて、大分液体に浸かってしまっていた。スプーンを交互に使いながら、かき氷を二人で分け合って食べる。
残りは飲んでしまった方が早いだろうというあたりになって、今度こそローグはそれを全て相手に譲った。
ちびちびと冷たさを確かめるようにシロップ水を舐めるウィザードを見ながら、どことなくほんわりとした感覚をローグは持て余していた。
「これは一番シンプルなイチゴ味ってやつなんですけどね、他にも色々ありましたよ。なんかポリン型のゼリーが入ってたり、桃の果肉とかシロップとかだったり」
「もも味?」
「ぶっは、それはしょっぱそうだ」
桃、とイントネーションが違う発音で言われて、思わずローグは噴き出した。そのあだ名で呼ばれている友人の顔を思い出したからだ。恐らくそんなことを言っていると知られたら拳が振ってくることだろう。ただしローグにのみ。
「……今度、」
また一緒に食べてくれませんか、という問いは発せられることはなかった。
「じゃ、次はおいらが買うねっ」
当然のように言われて、ローグは思わずまじまじとウィザードの顔を見つめてしまった。シロップに色づいた赤い舌が奇妙に目について、残像を振り払うように瞬きをする。
「具がいっぱい入ってるのがいいかなあ」
空になった器を両手で持って、ウィザードは楽しげに次の約束を語る。ローグはふいに泣きそうになって、訳がわからなくなった。笑う場面のはずだ。ああ、でも、こんな気持ちは知らなかった。
「そっすねえ、なんかお得な感じが」
「だよねー」
夏の日差しは、木陰の外の地面を焼いて尚熱気を伝えてきたが、吹いてきた風は幾分か涼しく感じられた。もっと早くあの出店を発見しておけば良かったなと思い、ローグはぽつりと口にした。
「……夏も、もう終わりか」
「うん、また来年だね」
それにも答えが返ってきて、ローグは意識しないうちに微笑んでいた。正直夏の終わりに良い思い出はないのだが、それでもまた夏はやってくる。それを知っているウィザードが少し羨ましくもあった。
『おーいデコー? あ、いたいた』
ローグが一人で勝手にしんみりしていたところをぶちこわしたのは、ギルドからの通信だった。ギルマスの声が思いっきり響いて、思わず空気読めよ、と叫んでしまうところだった。
びくっと反応したのを見てウィザードが気遣わしげに自分の様子を窺っていたので、軽く頭を下げてギルドのエンブレムを指さした。それだけで意味がわかったようで、軽く頷くと塀に座り直す。ローグはこめかみに指を当てて口の中だけで会話を始めた。
『……なに?』
『なんだよ、せっかく声かけてやったのに』
『用件を言え、用件を』
『みんな集まってどっか行こうって言ってるんだけど、お前さんも来る?』
『ああ……うん、わかった行くわ、ちょい待っててくださいって伝えて』
『あいよ』
会話を早めに切り上げて、待っていてもらった形になるウィザードに謝罪した。気にしないでいいよーと言ってもらうのに甘えて、狩りのお誘いを口に出す。快く了承をもらえたので、連れ立っていつもの場所まで行くことにした。
先に立ち上がって、少し躊躇してからウィザードの前に片手を差し出した。その手を掴んでとんと塀から降りたのを見守ってすぐに手を離す。
指先は思っていたよりもやわらかくて、だが指の付け根は硬質化していた。何千回と杖を振るった、その手に何度も助けられた、冒険者の手だった。
「どこがいいかなあー」
「暑いから氷ダンジョンとかどうでしょね」
「ロードオブヴァーミリオンっ」
「ここでやっちゃだめだー!」
冗談を言いながら、待っていてくれる人たちの元へと急ぐ。それがひどく幸せなことだと、今のローグにはもうわかっていた。


End.

 

とりあえずウィズさんに土下座しようと思います。
違うんだ本当はもっとほのぼのした図を想像していたのだけど実際書いたらどう見ても誘拐かストーカーです本当にryな感じになってしまって…! 友情話です。
槇原敬之さんの歌に、「桃」というのがあります。昔友人から教えてもらった曲なのですが、未だにこの歌が自分の中でのあらゆるCPのテーマソングになっています。というか、この歌が似合うようなCPが好きなんじゃないかな、と最近気が付きました。というわけで桃と合わせてご覧になるとこの話がわかりやすくなるかと。良い歌です。シングルに入ってる他二曲もオススメ。
互いに救われてるというか、相手に救いを求めてそれが受け入れられてるというか、そういう感じのが好きなのかもしれないです。
アコ剣士もアサバードもローグクルセもこの歌が似合うと言い切るぜ!でもなんかアサバードだけはこの歌に申し訳ない気がしてならない!

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