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見上げてみれば、空はいっそ嫌味なほどに澄み渡っていた。雲の欠片も浮かんではいない。どっかの微笑み王子がこれまた嫌味なほど決まっているスマイルとともに放射冷却がどうのこうの、と言っていたのを思い出してますます寒くなり、首をすくめた。
この年の瀬にそんなに気合いを入れて晴れんでもいいのに、と考えちまうのは今日どうせ掃除しかしないだろうという悲哀からかね。
去年は雪山で遭難したり推理ゲームに興じてみたりと盛りだくさんな年末だったが、流石に今年はハルヒもスイスに行きたいだなどとは言いださなかった。夏の合宿で満足したのか三年生に配慮したのかどうかは定かじゃないが。
そんなハルヒが今回企画したのが大掃除大会、だった。
これがまだ一年お世話になった溜り場、部室を掃除するなら解るが、あいにくあの部屋は数日前すでにすす払いを済ませている。
ならば会場となるのはどこかといえば、鶴屋さんのお宅だという。
しかしながらあの広大な鶴屋さんの邸宅には当然それを日々管理しているだろう本職の方々がいるに違いなく、我々素人が押し掛け掃除などしたところで邪魔になるに相違ない、と述べた俺の主張は当の鶴屋さんによって退けられた。
なんでも、鶴屋さんの家は市内に別邸(!)を所有しており、そちらは管理人はいるが必要な時しか大がかりな掃除はしないのでそちらを掃除してもらえばちょうどいいとのことだ。……俺などには鶴屋家の総資産がいかほどあるか皆目見当もつきません。
もちろんそんなことは鶴屋さんと打ち合せ済みだったハルヒは勝ち誇った顔をしていたね。いつかぎゃふんと言わせてみたいものだが、来年どころか今世紀中も無理だろう。
そして一種の様式美の如く残りメンバー三人が否定の意を示すわけもなく(長門は無言、ただしその小さな手にはハルヒから渡されたと思しき『家庭の掃除百選』と題された、普段のものから比べれば薄い本があった。朝比奈さんは少しばかり目を輝かせていたから、鶴屋さんの別邸に興味があるのかもしれない。無理もない、俺から見てもかなりな歴史的建造物だろうからな。古泉に至っては、もうそろそろそれは地なんじゃないかと言いたくなるような笑みとともに「一年の最後に人の役に立つというのもいいことではありませんか。掃除することによって自分の汚れも落とせるとも考えられていたようですし」などとコメントした。ならばこいつの部屋を大掃除したらどれだけ心がきれいになるんだろうな?)、かくして今年の大晦日のSOS団のスケジュールはつつがなく埋まったのだった。使いっぱしり約一名の心は納得していないが。
さらに掃除後は年越しソバ早食い大会なるものが予定されており、間違いなく今年の年越しも見慣れた面子で行うことになるんだろう。それに関しては俺に否やはない。ハルヒも内心楽しみなんだろうさ。そのくせ雪国に行こうとしないのは、あいつの自分的ルールによるものなのかもな。同じことを繰り返すというのは涼宮ハルヒにとって忌避すべきものらしいしさ。
俺としては未だ、自室の掃除を早めに終わらせてまで人様の家の掃除を行うことについて折り合いが付いていなかったりするのだが。年越し風景に文句がないのとはまた別次元なのである。
兄として妹に手本を見せなきゃならんため、自室の掃除は終わっている。母親だの妹だのに見られたくない物もあるしな……。
まあともかく、縁側だの風呂場だのの寒い場所を担当させられる心構えはしとかなきゃならんだろうな。ハルヒが俺に押し付けようとするのは見えているし、そうでなくとも朝比奈さんを凍えさせるわけにはいかん。長門はひょっとしたら体感温度の調節のような器用な真似ができるのかもしれんが、そういう問題じゃない。古泉は……まあ、なんだ、年末ぐらい労ってやってもいいだろ。どうせ年明け後にこき使ってやる予定なんだ。
誰に対してだか解らん言い訳をしつつ、多少急いで足を進める。
前方に見えてきた、実に見慣れた後ろ頭の持ち主を捕まえて答えの解りきった問い掛けをしなくちゃならんからな。
「自分の掃除は終わったのか?」
ってな。
確実に発表時期を逸している。