与太話にもほどがある 最近パラレル萌え 忍者ブログ
総合ブログです。 更新履歴・お知らせ・あとがき・萌え語り・小ネタなど。よろずジャンル・ネタバレあります。
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

元からだった気がしてならない。もうROじゃねえ。
なんだか楽しくなってきた現代風幻想シリアス黒話。断片。
 



― か ん な ぎ ―

神に仕えるための者がいれば、神を殺すための者もいる。
神薙。
小さな集落に伝わる話は、こうである。
神は万能の存在だが、時に間違いを犯す。間違いは天の災い、天災となりて人々に害を為す。人々はその間違いを正さなければならない。そして人々には、そのための力を与えられた存在がある。
神薙の子は、この世で唯一神を殺すための力を持っている。
間違った神を正せば、新たなる万能の神がその座に着き、人々に再び幸福が訪れる。
故に、神薙の家に生まれた子は剣術に励み、来るべき間違いの時のために備えるのが習いであった。
そして、神薙の家の子の宿命が、もう一つ。


じりじりと焼け付くような日差しを浴びて、青年は額の汗を拭った。長い髪をポニーテールにして日に晒している。手には粗末な木剣が握られており、体にも汗を掻いていた。
「よっ」
がさっと音がして、青年の目の前の木が揺れた。枝からぶら下がるように、一人の男が青年を見下ろしている。それを見て、青年は頬を緩ませた。
「こんにちは。危ないですよ?」
「平気平気。何せ俺の身の軽さは猿にも勝ると言われるほど――って誰が猿だ!」
一人で怒りながら、男はばさばさと枝の間をすり抜けながら地上に降りてきた。服や髪の所々に葉っぱをくっつけてはいるが、大きな枝が折れて落ちてきたということは何故かない。
「す、すみません」
「いやそこは『誰もそんなこと言ってない』とか突っ込んでいただきたい」
恐縮する青年に無理を言う男の、丸見えの額に汗は光っていなかった。と言っても彼の髪が薄いわけではなく、ただ単に前髪を短く切り込んだヘアスタイルであるというだけだ。
青年は――当代の『神薙の子』は、そう言われて困ったように笑った。木から下りてきた方の男は神薙の子の幼なじみだった。広大な敷地を有する神薙の庭に良く入り込んできては駆け回って遊んだものだった。もう成人も近くそのようなことはしなくなったが、こうして神薙の子が剣の稽古をしているとどこからともなく聞きつけてやってくる。
「最近熱心だな」
戯言を途端に放り出して幼なじみがぽつりとこぼす。
「ええ、成人も近いことですし……何か、奇妙な胸騒ぎがするんです」
「特に飢饉も病気も聞かないぜ? まあ、雨が最近降ってないぐらいか」
「根拠はないんですが」
神薙の子は空を見上げた。ぎらつく太陽から僅かに目を逸らして、辺り中に広がる大木の葉を見る。
「……でも、稽古に励むのは悪いことではないでしょう?」
何かを言いかけてそれを止めた相手に、特に問いただすでもなく幼なじみは頷く。
「まーそうだな」
その短い髪にまだ葉がついたままであるというのに神薙の子はようやく気が付いて、すいと手を伸ばす。一瞬、気づけないほど刹那幼なじみの体が硬直した。茶の髪についた葉を、軽い指先の動きで払い落とす。
「とれました」
にこ、と笑う彼に、幼なじみも笑うことで答えた。
「すいか持ってきたんだ、大きくて実が詰まってるやつ。一休みして食べよーぜ」
「はい、喜んで」
未だ空から降り注ぐ太陽の光は夏のもので、だが周囲からはセミの声は一切聞こえてこなかった。

「はーい、ご相伴に預かりに来たよー」
縁側に座った二人の背後から、黒を基調にした服を纏った男がやってきた。神薙の子と同じ色の髪を、ざっくりと切っている。
「兄さん」
神薙の子の顔がほころぶ。彼の兄は神をまつる神官の職に就いていた。それにしては神秘的な気配というものが一切ない。
「ありがたく食ってくれ」
もちろんこの神官とも幼なじみである男は、偉そうに胸を張った。
「はいはい」
適当に手を振ってあしらうと、神官は立ったまま冷えたすいかに口を付けた。じゅ、と汁が垂れる。
「兄さん」
神薙の子は今度はたしなめるような声色を出した。行儀が悪いと言いたいのだろう、神官はそれに対してごめんねと軽く謝ってから腰掛けた。
幼なじみの背中に。
「こら!」
たまらず声を上げる幼なじみの背に一度思いっきり体重をかけてから、神官は幼なじみと自分の弟の間に座る。邪魔だとでも言いたげな目に、誰がすいかを持ってきたと、と幼なじみは口の中で呟いた。神薙の子は全く気が付いていない。
「うん、なかなかいーデキだね」
「甘くて美味しいですね」
「喜んで頂けてなにより」
兄弟揃っての賛辞に、幼なじみはおどけて頭を下げて見せた。
だがその割に、弟の方は食が進んでいない。
「あんま好きじゃなかったっけ?」
「え、あ、そういうことはないんですが、あの」
口ごもる神薙の子の表情を見て、神官が彼自身には気付かれないように嫌な顔をする。それと現在の時間を見て、幼なじみも原因に気が付いた。
「ああ時間か、いいよ、あの人の分も持っていきな」
「……いいんですか?」
「いいさ、どうせ食べきらないだろ」
あの人が食べるともわからんけど、とこれも口の中だけで呟く。神官がますます渋い顔をした。
「では、失礼して」
一切れはその場で食べ終わった神薙の子は、二切れを別の皿に置き直して立ち上がった。皮は幼なじみが回収する。
「いってきます」
「いってらっさーい」
「……いってらっしゃい」
神薙の子は、一日のうち一時間は確実に敷地内から姿を消す。そしてそれが、神官は全くもって気に入らない。
「いい加減にふてるの止めろよ、大人げない」
「うるさい、あの子に関してなら大人げなんていらないね」
彼は特定の人物に会いに行っているのだ。話の種と時折は手みやげと、あの笑顔だけを持って。神官にはそれが本当に気にくわない。
「大体、神薙の子が悪魔の子と親しくするなんて」
「おい」
「……無責任な噂じゃなくて事実でしょー」
「そんなもんわかんないだろ、俺の友だちなんだから」
「私の敵だ」
「知らん」
本当は悪魔の子云々ではなく、ただ自分より弟に好かれる人物が羨ましくて疎ましくて妬ましいだけなのだが、それをストレートに出すわけにはいかない。ことさら神官である自分が、この神薙の家の中で。
「なあ、わかってるか?」
「……神薙の儀はもうじき訪れるよ」
「…………」
「私にはわかる。私はこの家で唯一の神官だ」
「後悔はしてないのか」
「何を?」
静かな顔をして、神官は幼なじみの顔を覗き込んだ。苦々しい顔をしている。良くも悪くも人間くさい相手だ。
「この家に生まれたこと? 神が間違ったと知れること? ……自ら神薙の子を降りて、神官になったこと?」
「……あいつのためだと言っても、あまりにも重すぎるだろ」
「それでも、私はね」
日はゆっくりと傾いていく。どんな治世も長くは続かないと、正しかった時はいずれ間違えるのだと告げるように。
「あの子を殺してまで世界を長らえたくない」

神薙の子は、当代に一人しか現れない。
そして神を殺すといっても、神の住まう場所に人が行けるはずもない。ならばどうするか、答えは一つだ。
神を受け入れる器があればいい。
神をまつる者――神官に、間違った神が降臨し、その器ごと神を討ち滅ぼすのが神薙の子たる者の定め。
神官は大抵が神薙の血筋の者が着く。そしてそれも、神薙の子と同じく生まれた時から決まっていることだ。
しかし当代ではイレギュラーなことが起こっていた。当初神薙の子として生まれたのは兄の方だった。だが兄は、事故により利き腕の神経を傷つけてしまい、今まともに剣を握ることが出来ない。そして、神官として生まれたはずの弟に、神薙の子の使命が移動したのだ。そして弟は、自分が神薙の儀の際に兄を殺さねばならないことを知らない。
幼なじみは知っていた。兄は、自分が神薙の子を降りるために、事故を装って利き腕を駄目にしたのだ。全ては弟を生かすために。
そして弟が自分を殺す日を静かに待っている。


今のところ力尽きたので残りはダイジェスト?で。

 

「……やあ悪魔。こんなところで何を?」
「言う必要はない」
「あっそ。別にいーけど私の視界に入らないでくれない? すっごく目障り」
「知るか」
「ふん……ああ、そうだ、私儀式に向けて色々しなきゃいけないんだけど」
「…………」
「別に君でもいーや。ねえ、遊ばない?」
神官は、『間違った』神をおろすために、自らの身も汚れていなければならない。だがその笑った神官の顔の中で、目だけがぎらぎらと欲望とは全く違ったもので輝いていた。限りなく殺意に近い、憎しみだ。
「断る。アレとでもしていろ」
「私SでもMでもないからびみょー」


「世界が好きです。神様が好きです。正しいことが好きです。間違ったことも好きです。植物が好きです。動物が好きです。悪魔も好きです。人が好きです。あの人が好きです。兄が好きです。家族が好きです。そして……あなたが、好きです」


「よ、ありがたいお告げに来ましたよっと」
「……何? その面白くない冗談」
「あいにく冗談じゃないんだな」
数分前まで、幼なじみの顔で神薙の子と笑いあっていた男は、にんまりと笑った。その背に翼はないが、つま先は軽く宙に浮いている。
「はじめまして。御使いです」
深く身を折って、ふざけたように礼をした。
「俺は神薙専用のメッセンジャーみたいなものでね。代々真の『神薙』となるべき子の傍にいるんだ。そして、神が墜ちる日はもうすぐそこまで来ている」
「……なるほどね」
何故か気にしたこともなかったが幼なじみの家族の話などは一切聞いたことがない。ましてやどこに住んでいるかも、何をして生計を立てているのかも知らない。そういえば、よく弟に髪を切ってもらっていた光景を覚えている。やったことがないからと遠慮する弟に強引にハサミを持たせ、挙げ句ばっさり前髪を切り落とされ、それが気に入ったからとそのままにしていた。切りに来る感覚は人間にしては確かに遅かったが、それを弟に頼んでいたのは納得がいった。
「つまり、君は……いや、君も神薙の子にしか傷つけられないわけ」
幼なじみは、いや、御使いは軽く肩をすくめた。
「試してみるか?」
すっとその手を前に差し出す。神官は迷うことなく、左手で護身用の短剣を抜いてその手のひらに突き刺した。つもりだった。
その手には全く刃が立たず、血の一滴肌の一枚も切れてはいない。
「さて、身の証も立ったところで本題に入るか」
「本題?」
「あんたには必要のない問いだとは思うが――『神薙の神官』には、たった一度きりのチャンスが与えられる」
神官はゆっくりと瞬きを繰り返す。
「神薙の子に成り代わることだ」
「断る」
コンマ一秒の反応だった。くっく、と御使いは普段のままの笑い声を上げる。
「まあ最後まで聞けよ。方法は、神官と神薙の子が交わること」
ぴたりと神官が動きを止めた。
「神官は我らが神の移し身として汚されていなければならないが、逆に神薙の子が清廉でなければいけないということはない。つまり、元神官の体でも神薙の子は充分につとまるってわけだ」
「……私には関係が」
「あるね、おおいにある」
全く似合わない仕草で、御使いは両の腕を広げた。
「あんたは迷ったはずだ。不可侵だったはずの、弟を犯せるというチャンスに、な」
すっと目を細めた神官の、唇の端が噛まれている。
「だが犯った瞬間、その役割は交換されなければならなくなる。……俺は色々な兄弟を見てきたよ。死にたくないがために神薙の子を犯した奴。誰にも何も言わず神官のままで死んでいった奴。悩みに悩んで神薙の子に相談してしまい、逆レイプにあって兄を泣く泣く殺した奴」
――あんたはどうする?
御使いは笑っていなかった。
「断る」

 

ある夜のことだった。
一人庭を散策していた神官は、木の枝に腰掛けた人物に気が付いて足を止めた。
「よお」
御使いは足をぶらぶらさせながら、倉の方をぼんやりと眺めていた。
「不法侵入」
「何を今更」
御使いは苦笑する。神官の顔を見ようともしない。
「何やってるの」
仕方なく問いかけると、御使いはちらりと腕に目を落とした。その腕にはまっている時計は、兄弟が幼なじみにとプレゼントしたものだった。御使いには不似合いだ。
「そろそろ時間だなあ、と思ってた」
「何の」
御使いはようやく神官を見た。哀れんだ目をしていた。
「残念だな」
「は?」
「あんたの願いは叶わないよ」
「何を言って」
「神薙の子は宿命だ。……人が、己の意思で変えることの出来ない、な」
「…………!?」
「あんたはたった一度のチャンスをふいにしてしまった」
「な……じゃあ」
御使いはまた倉に目をやった。

「神官はあいつだよ。そして、神薙の子はあんただ」

「だ、って、あの子でなければ君は傷つかない」
「ああ……確かに神を傷つけられるのは神薙の子だけだ。でも、御使いまでが同じ属性なわけじゃない。御使いを傷つけられるのは、神官だけなんだ」
「ふざけ……!」
「あんたが勝手に勘違いしたんだ」
誤解されるようにしておいたままだったのは御使いだったが。
「じゃあ、何が、始まるって」
「神官は神薙の儀までに汚れていなければならない……わかるだろ?」
そう聞いた瞬間、弾かれたように神官は――兄は走り出した。ほど遠い倉へと向かって。
御使いは誰もいなくなったはずの空間に向けて語り出す。
「……嫌な仕事だなあ、そう思いません?」
「知るか」
闇の中から出てきたのは、その背に別の宿命を背負う人。
「でも、自分の役割からはみ出さない程度に……俺にだって願いがあるんすよ。こんな、茶番を」
「そうか」
「あなたも、そうじゃないんすか」
「……さあな」

 

神薙の子と、神官が生まれる前の話。
人が天界と呼ぶところで、一人の御使いが浮かない顔をしていた。
「どーした」
「よー……またあの時期でさあ、気が滅入るっての」
「ああ、暇つぶし……」
「な。今度はお前も一緒に行かねえ?」
「……無理だよ、知ってるだろ」
「言ってみただけー」
あの神は、親しい者同士を決して同時に地上に降ろしたりはしない。結託して自分に刃向かうのを、自分の元から逃げ出すのを恐れているのだ。誰よりも疑い深く、しかし底抜けに騙されやすい。類い希なる人格者で、どうしようもない暴君だ。
神は、正しくあるには悪魔に近すぎ、間違い続けるには聖性が強すぎた。神は万能であり、無能だ。
そして神は死なない。人間が神薙と呼ぶ者の手によってでも、死なない。死んだ程度で代わりがやってきてくれるなら、神は喜んだだろうが、そんなこともない。
結局の所、神薙の儀とは神の食事の一つに過ぎない。神薙の家に生まれた者の宿命と悲哀を、身内を殺す瞬間の絶望と憎悪を、そして神官と神薙の子のエネルギーを、好きなだけ食らって神は空腹を満たす。
「茶番だ」
ぽつりと御使いは漏らし、友人は慌てて周囲を見渡した。近くに人はいないが、雲に耳あり風に目ありである。
「滅多なこと言うんじゃないよばーか」
「馬鹿って言った方が馬鹿なんだ。……まあでも、掟ってのは抵触してこその掟だよな」
「おい」
「俺は……神薙なんて馬鹿馬鹿しいと思ってる」
友人は、虚を突かれたようにどきりとした。御使いが、己が人間であったころのことを思い出したのかと思って。
御使いは、純正の御使いではない。
神薙の家に生まれた、ただの人間だった。
だが、余命幾ばくもない病に若くしてかかり、家人はちょうど起こっていた天災にかこつけて彼を利用した。伝承を自らの手で作り上げ、彼を無理矢理『神官』に仕立て上げ、兄弟の手で殺した。
その一部始終を見ていた神が面白がり、本当に神薙の儀を確立させたのだ。その際にルールを一つ追加するため、見届け人が必要となった。それに選ばれ御使いとしての生を受けたのが、彼だった。
自分を殺して栄えた神薙家を恨めるはずもない。彼には人間だった頃の記憶もなく、姿も全く違うのだから。
「いざとなったら……」
ぼそりと呟く。だが、一転して明るい声で
「いや、やめとこう」
にっと友人に笑ってみせた。
「んじゃまあ、二十年ぐらい後にまた」
「ああ、また」

 

終わりは考えてないというのがオチ。 

PR
この記事にコメントする
お名前
タイトル
文字色
メールアドレス
URL
コメント
パスワード   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
この記事へのトラックバック
この記事にトラックバックする:
[57]  [56]  [30]  [55]  [29]  [28]  [54]  [53]  [52]  [51]  [27

忍者ブログ [PR]